ソーシャルディスタンスを保つために在宅勤務が増える中で、多くの人がコミュニケーションと生産性の維持のためにリモートワークITプラットフォームを使用しています。しかし、研究者やラボスタッフのこのような働き方の変化は、リモートプラットフォームを十分に活用できるよう、自らの研究の手法を変えなければならないことを意味します。
本ブログでは、リモートでの顕微鏡観察を行う上で役立つ6つのヒントをご紹介します。
1.ラボで利用可能なITプラットフォームの選定
リモートでの操作能力はラボのITインフラに大きく左右されます。リモート顕微鏡観察の計画を立てる中で、使用可能なウェブ会議ツールまたはソフトウェア、施設でのネットワーク制限、その他ITインフラに関して留意すべき点はないかを確認します。
また、ソフトウェアに起因するエラーが起こらないかもあらかじめ確認が必要です。たとえば、Windowsアップデートが夜間に実行され、再起動が求められると、リモート操作に影響する可能性があります。組織内のITポリシーに従う必要はありますが、アップデートをオフにしておくことで、この問題は未然に防ぐことができます。
2. 現在リモートで可能なことを特定して、顕微鏡観察を計画
次に、リモートでできることとラボで行わなければならないことを選り分け、リモート観察の計画を立てます。
これはご使用の顕微鏡や行っている実験によって異なります。フル電動顕微鏡の場合、通常は観察の設定後にその場を離れることができますが、以下の点にご注意ください。
- ラボですべきこと:サンプルの設定とフォーカシング、補正環の調整、必要に応じてオイルの塗布、およびリモート環境の設定
- リモートでできること:粗フォーカス設定後の操作、観察のための微調整、および画像の解析や共有
システムがリモートでの観察や操作を実施できないものであっても、販売店が提案するオプションもぜひご検討ください。
たとえば、ほとんどの顕微鏡は電動システムにアップグレードすることができます。また、現在はリモートでの観察、画像共有または顕微鏡操作のためにさまざまな顕微鏡用ツールやウェブ会議のプラットフォームがあります。
一般に、オイルはリモートでは扱いにくいため、リモート観察にオイルを使用することをお勧めしません。リモートでオイルを塗布できなかったり、オイルの塗布量が多すぎる場合、または光学系が使用後適切にクリーニングされない場合は、画質に影響したり、光学系の破損につながる可能性があります。しかし、例外として、オイルを自動で注入するリサーチスライドスキャナーを使用することがあります。また、オイルの使用に慣れている場合には、プレオイリング(実験開始前にオイルを塗布すること)も手段の一つです。
3. 同焦点の調整
対物レンズを回せば簡単に素早く微動を調整できるため、接眼レンズで観察する際に同焦点調整の重要性を認識することはあまりありません。しかし、リモートで顕微鏡を使用する場合、異なる倍率間の同焦点がスムーズな観察にとって重要な要素になります。
同焦設定をきちんと行うことにより、倍率を切り替える際のフォーカスの再調整は不要になります。カメラの同焦調整については、クイック手順ガイドをご参照ください。同ガイドに記載されているように、カメラの同焦点を調整する前に接眼レンズで同焦点を調整することは重要です。
4. ステージの平面度を確認。
ステージの平面度はリモートで固定できないため、きちんと調整されないままではサンプルのピントがずれる場合があります。ラボで焦点深度が浅い高倍率でXY方向にステージを動かすだけ簡単に確認することができます。
ステージの平面度が固定されていない場合、焦点面がサンプルのZ面に対して移動し、最終的にXY移動中にサンプルのピントがずれる可能性があります。オリンパスのステージインサートは調整を行わずにフラットなステージになるよう設計されています。
5. リモート観察での最適なフォーカス方法
フォーカシングはリモートで行うのにもっとも難しい操作の1つです。対物レンズをサンプルに衝突させ、サンプルや光学系が破損してしまった場合、フォーカシングを元に戻すことはできません。倒立顕微鏡での観察ではホルダーからサンプルが落ちるだけの場合もありますが、この場合もリモートでは元に戻すことはできません。
上記のような状況を避けるための5つの方法をご紹介します。
- 慎重なモニタリング:ここでの問題はライブ画像のフレームレートと、実際のZ移動からの遅延です。フレームレートはビニングやサブサンプリングによって改善できます。また、これらは使用しているウェブ会議ツールによっても影響を受ける場合があるため、画質や速度を調整する設定メニューが備わっているツールを使用し、特に焦点面を探している場合は、速度を優先することをおすすめします。
- より深い焦点深度で段階的にアプローチ:この方法は、どの画像も焦点深度外で何も見えなくなるという状況の回避に役立ちます。画像が極端にぼやけていると、フォーカスを上に移動させるべきか下に移動させるべきかを判断することが難しい場合があります。このため、焦点深度外にターゲットのピントがずれないようにしてください。焦点深度は開口数(NA)によって決まります。高NA対物レンズは焦点深度が浅いため、低NAから高NAへ、通常は低倍率から高倍率へとフォーカスを調整することをおすすめします。共焦点顕微鏡を使用する場合、「より深い焦点深度」の同様の類推が役立ちます。共焦点開口部が小さいと、焦点深度は浅くなるため、サンプルが見えない場合、またはサンプルが暗すぎる場合は、より広い開口部でターゲットの識別とフォーカシングを試みてください。正確なフォーカシングの後、画像取得のために適切な共焦点とレーザー出力を設定します。
- 離れた位置からのアプローチ:対物レンズがサンプルにぶつかることを避けるため、離れた位置からは慎重にアプローチすることが重要です。倒立顕微鏡を使用している場合、底側からアプローチします。正立顕微鏡の場合は、上側からアプローチします。XYを大きく移動させる場合、ステージを動かす前に対物レンズを動かすことをおすすめします。
- サンプルの3次元形状を推測:サンプルはXY位置が異なると、同じZ面に存在していない場合があり、動かしすぎるとサンプルのピントがずれる可能性があります。これはサンプルそのもの、または上述のようにステージの平面度によって引き起こされる可能性があります。焦点深度が浅い高NA対物レンズを使用する場合、XYを少しずつ移動し、Z位置を慎重に調整してください。ピントがずれた場合、可能であればより深い焦点深度の設定に切り替えます。貼り合わせ画像を作成している場合、フォーカスマップがフォーカスの高さ設定に役立ちます。
- フォーカス制限に留意:サンプルや機器を保護するために、フォーカス制限が設定されている場合があります。フォーカス制限の特性によってZの可動範囲が限定されます。通常、フォーカス制限を変える必要はありませんが、意図的に設定を変えた場合や厚みのあるサンプルを使用している場合、フォーカス制限の特性によってはサンプルに十分近付けて観察することができない可能性があります。対物レンズとサンプルの間の物理的距離を観察する必要があるため、フォーカス制限の設定は現地でのみ可能です。
ここではリモートでのフォーカシングについて紹介しましたが、もう1つの方法としてフォーカシングの自動化があります。詳細はブログラボ内にいる時間を短くして長時間のライブセルイメージングを達成する4つのヒントをご参照ください。
6. マップを使用して、XY位置を特定
リモート観察のもう1つの問題は、どこを観察しているのかという感覚を失う可能性があることです。これは、フレームレートが制限されること、ライブ画像が遅延すること、視野(FOV)が制限されること、顕微鏡のステージが直接見えないことが重なり引き起こされます。
この課題に有用な解決策はマップを使用することです。電動ステージの構成により、低倍率でマップを簡単に作成できます。どこを観察しているかをすぐにかつ継続的に特定することが可能になるため、マップの作成に多少の時間を費やすことは無駄ではなく、さらに、マップ上の位置をクリックするだけでどこでも望む位置にジャンプできるようにもなります。